Road「みち」

大歩行

林 俊之/はやし・としゆき(浜松旅と文化の会)

マリエンプラッツからの第一歩

 1983年8月6日、ローマへの徒歩旅行の第一歩は、ミュンヘンのマリエンプラッツだった。雨が降っていた。街を通り抜けてイザール川にさしかかるころ雨は一段と激しさを増し、土手の道は増水した水であふれている。大幅に迂回して時間を食ってしまい、宿に着いたのは8時45分だった。 

  ようやく翌朝になって雨が上がる。昨日はあんなにとぼとぼと重い足取りだったのに、今日は打って変わって足取りは軽い。イザール川の渓流は心地よい水音を立て、マスが楽しげに泳いでいる。 

  緑の林を抜けたカイサッハの村はお祭りの真っ最中だった。バイエルン地方の民族衣装を身につけて、飲めや歌えの大騒ぎ。 「やあやあ、仲間にお入りなさい」とばかり並々とビールを注いでくれる。初対面であっても、まるで旧知の仲のようにジョッ キを掲げ、腕を組み、肩を寄せ合う。 

  なにしろバイエルン地方はビールの本場、世界の1/3のビールを生産しているときている。しかも1516年以来「バイエルン純粋令」そのままに伝統を受け継いでいるから、由緒正しいことこの上ない。村のビアホールでは老いも若きもにぎやかに飲みまくっている。みんな陽気だ。こんな気軽な社交場を持っているなんて羨ましい。

 赤と緑の衣装の女の子が近づいてきて、一緒に写真を撮りましょうと手振り身振りでプロポーズしてくる。にこにこと回りの人たちがはやしたてる。ドイツ人って堅苦しいイメージがあるけれど、一皮むけばこんなに人なつっこいのか。アボガドみたい。ほら表面は固いけれど中身は柔らかい。

 3日目。アルプスを初めて見た。ジルベンシュタイン湖にその雄姿を映していた。イザール川を裸足で渡る。冷たくて気持ちが良かった。モミやツガの木々が青い空に向かってまっすぐ伸びていた。緑が濃い。大勢のハイカーが森の中を歩いていく。ドイツ人ってどうしてこんなに歩くのが好きなのだろう。道祖神、馬頭観音、韋駄天もびっくり。

 見上げるアルプスの山並みに囲まれて、国境の街ミッテンバルトがあった。ここはバイオリン作りで有名なところだ。そのための学校もある。大きな軒の民家には美しい壁絵が描かれていた。丸い緑の屋根を乗せた教会が街の中心に見える。

 昼、レストランでウィンナーシュニッツェルを食べた。日本風で言えば子牛のカツレツといったところか。毎日30キロ以上歩く身には十分栄養をつけなければ。

国境を越える。

アルプスを越えて。

ローマへ向かう。

―――と、続きます。


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